「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。

09 行かないで

「ただいま……どうしたの? フィオナ。そのドレスは可愛いけど……それは、お茶会用のデイドレスだろう?」

 仕事帰りのシリルは、私がお茶会に出席したままで部屋の中に座っていたことに驚いているようだ。

 視線を上げれば窓の外は、もう暗い。

 私がずっと考えている間に、日中働いているシリルが帰って来る時間になってしまっていた。

 シリルは今は軍に関係した仕事をしているので、軍所属になるらしくきっちりとした軍服を着ていた。相変わらず、視界の悪い暗がりでも思わずはっとしてしまうくらいに素敵な人だった。

 メイドの呼び掛けもどこかで聞こえていたような気もしたけど、私の反応がなかったので彼女は諦めていたのかもしれない。

 ジャスティナから色々と聞かれたので、そのことの処理で精一杯でもう何も覚えていない。私が勘違いした理由とか、エミリオ様の本心とか。

 もう何もかも、どうでも良くて。

「あ……ごめんなさい。私」

 貴族の妻としてシリルが帰って来た時には、玄関ホールへと彼の出迎えにいつも出ていたのに、それすらも出来ていなかった。

「フィオナ。謝らないで……何かあったの?」

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