「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
 私の隣に座ったシリルは、外の匂いがした。彼は外出していたのだから、当たり前だけど。

 そんなことで彼がすごく近くに居るのだと、実感した。

 まるで慰めるように大きな手を膝の上にあった私の手に重ねて、シリルは私の返事を待っていた。

 こんなに優しい人なのに。

「……何も。ごめんなさい……私。出迎えも出来てなくて」

「こんなフィオナの様子を見せられて、その言葉を俺が信じるとでも? 確か今日は友人のジャスティナ嬢のお茶会に、出席すると言っていたね? もし……君に言えないようなことがそこで起きたというのなら、彼女に直接聞くよ」

 シリルは硬い表情で立ち上がり、私の部屋を出ようとした。私は止めようと慌てていたので、彼の背中へと抱きついてしまった。

「行かないでっ……」

 シリルの背中は、私が想像していたよりだいぶ大きくて広かった。私はいけないと思って身を引こうとしたんだけど、その前に彼の体の前で手を握られた。

「わかった。どこにも行かない。これは今日も頑張って、働いて来たご褒美? フィオナ。こうしてくれて、嬉しいな。君が落ち込んでいる理由は、俺には話してくれないの?」

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