「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
「……ルーンさん。素敵なのに。頭が良くて、すっごく優しいし。か……」

 顔もとても可愛いしと言おうとして、私は慌てて口に手をあてた。

 そうそう。男性は「可愛い」と言われたくないらしいし……いけない。変なこと言って怒らせるところだった。

「は? あんた。正式に結婚してる自覚あるなら、むやみに他の男褒めない方が良いよ。夫が決闘するのを、見たくないだろ」

 本当に嫌そうな顔をして言ったので、仲の良い友人の妻に褒められてもそれは微妙な気持ちになるかもしれないと反省した。

「あ。そうですよね……もうしないです。ごめんなさい。けど、ベアトリス様のご機嫌を、シリルもずっと一人で取っていたら大変でしたね」

 私も一回しか会ったことはないけど、聖女ベアトリス様の迫力は本当にすごかった。

 シリルはあの人を一年半にも渡る長い魔王討伐の旅の中、いくどとなく迫られても決定的なことを言わずにご機嫌を取っていたことになる。

 私も想像するしか出来ないけど、それは神業に近いと思う。

「……え? あー。まあね。うん。大変そうだった。俺は関係ないけど……関係ないままで終われて、まじで良かったよ」

 ルーンさんはどこか遠くを見ながらそう言って、熱いお茶を飲んだ。
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