冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 彼が手渡してくれたのは、色とりどりの春の花が束ねられた小さなブーケだ。縛っている淡いピンクのレースのリボンも可愛い。

「ええと、どうしよう。受け取ってくれるなら、一旦屋敷の人に預けて来る?」
「ううん、このまま持ってく! 嬉しいな、こんなのもらったことないよ……」

 セシリーはついつい浮かれてしまう。男の人から花束を貰うなんて、今までほとんどなかった。ちなみに父は事ある度にくれるのだけど、それを勘定に入れても空しいだけだ。

 ラケルは手が塞がるからとセシリーの鞄を持つと、人混みでも誰かにぶつからないよう体で守ってくれたりと、呆れるほどの紳士っぷりを披露してくれる。彼の今日の姿は制服ではなく、こざっぱりとした白いシャツにダークレッドのスラックスだ。髪色とよく調和していて、背は高くないけれどスタイルのいい彼を大人っぽく見せていた。

(だめだめ、今日は遊びじゃなくて……ラケルの大事なお師匠様に紹介してもらうんだから)

 ラケルの隣に並ぶセシリーはにまつく口元をブーケで隠し、自重するように自身に言い聞かせながら、エイラからされた話をラケルに相談する。
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