冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 でも母サラはそれを補うようにいつも笑顔で、大して父も反応は返さないものの、要所要所で妻への気遣いを見せていた。それが子供心にもなんとなくわかるくらいには、両親の仲はよかったはずだ。

「ねぇ、はやくはやく!」
「はいはい」

 せがむセシリーの頭を撫でると、サラは歌うように綺麗な声で銀髪を揺らし、楽しそうに身振り手振りを加え、話をしてくれた。


 ――これは、ある国の都にいた、とっても立派な志を持っていた騎士様のお話です……。

 その騎士様は剣の腕も達者で、魔法も使えて、並の兵士が百人束になっても敵わないと評判になるくらいの英雄でした。しかしそんな彼でも、国中すべての人を助けることはさすがに叶いません。あまりに皆が助けてくれと求めるものだから、休みも寝る暇もろくに無く……彼はいつしかそれを苦に、都を逃げ出してしまいました。……そう、彼がいくら人々を助けても、彼を助けてくれる人はひとりもおらず、なにもかも嫌になってしまったのです。
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