冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 オーギュストもこの時だけは、昔を懐かしむように目を細めて口を緩め、はしゃいだセシリーの頭を撫でてくれる。今も()せず、セシリーの記憶に残っているはずの、両親のとの繋がりを一番感じられていた幼い頃の嬉しい一時……。




(――なんで、忘れてたのかな……)

 翌朝……薄っすらと開けた瞳から、涙が一筋頬を伝う。

(お母さんが付けてた髪飾り……壊しちゃった)

 言いようのない寂しさが胸を支配して……朝日がカーテンの隙間から差し込んだ後も、侍女のエイラが起こしにくるまで、しばしセシリーはベッドの上で子供のように体を丸めていた。
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