冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

月精の森

 数日後、セシリーはジェラルドの許可を得て、離宮内の獣舎を訪れた。ジェラルドに伝えられていた通り、この国では白狼は月の聖女のお付きの精霊と認知されているらしく、丁重な待遇を受けた彼の毛並みは驚くほど丁寧に整えられており、見違えた姿でセシリーを迎えてくれた。

 そして――。

(セシリー!)

 彼が飛びつくと同時にハイトーンの少年めいた声が頭の中に響き渡る。

(元気にしてた? リルル……)
(うん! なんか、見たことない美味しいご飯を沢山貰ったんだよ!)
(そう、よかったね……)

 顔を擦りつけて喜ぶリルルを、セシリーは優しく抱きしめ、頭の中で言葉を返した。

 彼とこうして意思疎通が可能になったのは、王宮に訪れる前にセシリーが連れて行かれた、王都近郊の森での出会いがあったからだ――。
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