冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 ジェラルドは、母の墓前を訪れたセシリーを拘束したすぐ後、月精の森と呼ばれる、緑深き森林へと分け入った。オーギュストは人質として拘束し、セシリーと護衛の兵士を数人連れた彼は、リルルを離し、跪いて顔を合わせると命令した。

「月の女神の眷属である精霊よ。我らを長たる者の元へと案内せよ。貴様らも、もうさして時間がないことは分かっているのであろう?」
「クゥン……」

 リルルは困ったような顔でジェラルドとセシリーを交互に見上げると、仕方なく背を向け彼らを森の奥へと誘う。それに続きジェラルドは、セシリーたちを率いると迷い無く進んでいく。

「あの……この先に何があるんです?」
「この森の奥の秘境には、月の女神の加護を受けた眷属たちがひっそりと暮らしているという。歴代の聖女の中にはこの森に分け入り、何らかの神託を受けることのできたものもいたそうだ。お前が聖女としての資格を持つ者なら、彼らは応じ、助けとなる言葉を授けてくれるだろう」
(資格があれば、ね……)

 セシリーは半信半疑の状態で後を追おうとするが、歩き慣れた旅用の靴でもこうも深い森の奥ではうまく動けない。それを見かねてか、ジェラルドは立ち止まると戻ってきて、セシリーの体を下から掬い上げた。
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