冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
(あっ……)

 リュアンの真剣に仕事に励む姿が見えたのだ。一緒にガレイタムから帰ってくる時もそうだったけれど、さんざん見慣れたはずの彼の顔が今は……どうしてかちょっとまともに見られない。

「どうしたのよセシリー」
「ああ、来たのか」

 背中を押したロージーの言葉に反応したリュアンと目が合い、慌てて目線を下げ、おずおず執務室の中に入る。すると彼はわざわざ前に進み出てセシリーに笑いかけてくれた。

「お帰り」
「……ただいまです」

 そんな一言を言うのが精一杯なセシリーの背中を彼は押して応接用のソファへと座らせると、自分も隣に腰を落ち着けた。触れそうな肩越しに彼を見上げると、首筋の辺りに少し傷跡が残り、袖からもまだ包帯が覗いている。ジェラルドとの戦いでの負傷が、まだ完治していないのだ。
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