冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「痛みますか?」
「なんてことないさ。俺が丈夫なのは知ってるだろ。すぐに治る」
「ごめんなさい」
「名誉の負傷なんだ、気にするな」

 そういって彼はセシリーの後ろ頭を優しく撫でる。細くひんやりした指先は気持ちよく首の後ろを刺激し、セシリーは(なんで!?)とびっくりして赤くなりつつ……ジェラルドにもよくこうされたことを思い出し、むくれたふりをした。

「私は犬じゃないですよ」
「ん、ああごめん。そうじゃなくて、綺麗な髪だったんでついな……気に障ったなら謝る」
「そ、それなら別にいいんです」
「こらこら団長、ここは騎士団の執務室なんですから甘いやり取りはまた別の時にやりましょうね。以後自重するように」

 犬扱いではなかったことに安堵しつつまごつくセシリーの前に、銀縁の白いティーソーサーをぬっと突き出したのはキースだ。彼はレディーファーストで団長への紅茶を後回しにすると、きついお小言をセットで添える。
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