冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

クライスベル商会の異変

 久方ぶりの再会をセシリーが楽しんでいる数日前、オーギュストは王都に戻って早々クライスベル商会を訪れていた。キースから伝えられていた、ルバートの言葉がずっと気になっていたのだ。

 しかしその前に目にした光景はオーギュストを慄然とさせた。

(どうしたことだ……これは)

 商会の建物は、一階が総合販売所、二階以降が職員たちの作業するフロアや倉庫になっている……。当然いつもなら多くの買い物客で賑わっているはずだが、建物の周囲は閑散とし、ところどころに『品質管理のずさんな低俗商会を許すな!』『金儲けのことしか考えていない詐欺集団』など抗議内容が記された看板をかかれた住民が座り込んでいる。

 経営の大部分をルバートに任せているため、そこまで顔が知れているとは思わないが……オーギュストは一応警戒して目立たない場所に作られた裏口を開け、商会の中に入り込む。活気のない店内の通路を通り、階段を登って三階の役員室を目指した。途中すれ違う職員とも挨拶を交わすが、顔色が悪い。

「ルバート、入るぞ。ルバート」
「オーギュスト様! 今までどちらに!」
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