冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「お急ぎください。長期となれば……我らが商会も王都に移転するにあたって設備投資をしたばかりですし、資金が保ちません。すでにいくつかの取引先から契約を考え直したいと連絡を受けています。何か手を打たねば……」
「わかっている……! 必ず事の真偽を明らかにして戻る。待っていてくれ」
「……ええ。オーギュスト殿、我々はあなたに恩義のある者ばかりで、クライスベル商会は我らにとって、自分たちの家に等しい。それを守るためならば職員一同、一丸となり戦う覚悟です。ひたすら耐え忍び、あなた様のお帰りをお待ちしております」

 チャドルはその浅黒い肌の色が示す通り、元は流民であった。故郷を捨てた彼の商会に対する想いは人一倍強くはずだ。必ず持ち堪えてくれると信じ、深く頭を下げた彼の肩に手を置いて背を向け、オーギュストはクライスベル商会を後にしていった。

(捕らえられているとしたらここから一番近い、べジエ子爵のところだろうか……? いや……)

 思慮深い人物であれば、誘拐した人物を身近に置くことはまずすまい。ならばルバートは……元凶となるそれを指示した人物の元で捕らえられているのではないか。

 彼も高齢ではあるが根性の入った男だ。体力的には今しばらく頑張れるだろう。この手で元凶と直接対話し、決着をつける。そう意気込むとオーギュストはこの王室直轄地よりひとつ西に離れた領地へと出向くべく、辻馬車を捕まえ飛び乗った。
 
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