冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 そこから現れたのは、宝石箱のような外観をした、少し古めかしいがよく手入れされた銀色の足つき小箱だ。

「うふふ……おふたりのお邪魔をして申し訳ありませんが、今お渡しするのが丁度よいかと思いまして」
「これは……?」
「少し古いものですが、節刻みの時計塔で流れる舞踏曲を奏でるためのオルゴールです。動力として魔力を使わなければなりませんが、リュアン様なら扱えるでしょうと、キース坊ちゃんが……こほん。キース様がおっしゃってましたの。ちょうどあちら側が空いておりますし、よかったら試してゆかれませんか?」

 メイアナの手の向こうには、定期的に楽師などを呼んで演奏したりもするのか、一段高い開けたスペースがある。

「なるほどな。これで練習してこいってことだったのか……」

 キースの意図を汲み取ったリュアンは頭を掻いた後、セシリーを見つめた。

「頼んでも……いいか?」

 控えめな、舞踏への誘い。あの時は自分から申し出たが、いざ反対に問われるとなんとも気恥ずかしい気分になる。しかしリュアンがこうして自分から踏み出してくれたのだから、拒む気持ちなど一片も湧かない。
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