冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

応えられない想い

 翌日も元気に出勤したセシリーは昼休みが終わるころ、魔法騎士団の一室……ラケルが使っている部屋に昼食を乗せたトレイを運んだ。謹慎中で部屋から出て来ない彼の様子がどうしても気になったのだ。

「ラケル、開けてくれる? お昼ご飯を持って来たんだけど」
「……セシリー? 入って」

 ノックした扉がすっと開き、ラケルが顔を見せる。その顔は憔悴していて、いつもの快活さが見受けられない。綺麗な赤い瞳も、いつもの輝きを失っているように感じられた。

「調子、悪そうだね。あの……ごめんなさい。私が連れ出したせいでこんなことになっちゃって」
「もういいよ……気にしないで。ありがとう、そこに置いて座って」

 ラケルは、テーブルに備え付けた椅子を引いてセシリーに座らせ、自分はベッドに腰掛ける。いつもなら、なんとはなしに話が進むふたりだったが、どうもそれきり黙り込んでしまう。

 話のきっかけが欲しくて、セシリーはこの間の隣国の話を口に出す。

「む、向こうではなんか大変なことになっちゃったよね。疲れたでしょ……あの、今度何かお礼したいなって思うんだけど、なにか食べたい物とか、欲しい物とかあるかな? なんでもいいよ」
< 602 / 799 >

この作品をシェア

pagetop