元彼専務の十年愛
廊下には黒い石目のカーペットが敷かれていて、重厚感のあるダークブラウンの扉が並んでいる。
15階にVIP用の応接室があるのは知っていたけれど、足を踏み入れるのは初めてだ。
私には…いや、大多数の社員にとっては縁のないところ。
どうして私は今こんなところにいるんだろう。
勘弁してほしい。ただでさえ店長の件で憂鬱なのに。

『第三応接室』と刻まれたゴールドプレートの扉の前で大きく深呼吸をした。
きっと誰かと間違えているだけだ。私は何の悪事にも手を染めてはいないし、そもそも会社の大きな損害になるような仕事をはしていない。
自分に言い聞かせ、覚悟を決めてノックをする。
中から低い声で返事が聞こえたのを確認して、緊張しながら重い扉を開けた。

「失礼いたします」

いかにもVIP用と言った感じの、お洒落なヘリンボーン柄の壁。
室内には黒い3人掛けのソファが2台。
奥のほうのソファには男性が座っていて、他に人の姿は見当たらない。
遠目で見ると若そうだけれど、この春専務に就任したのは社長の息子である20代後半の男性だったはずだ。
彼が専務で間違いないのだろう。
緊張を増し、ごくりと唾を飲み込んだ。

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