元彼専務の十年愛
「電話も出ないしさあ。マンションに行ったけど空き部屋みたいだったし。住所嘘ついてたわけ?」
電話に関しては、着信拒否していいと隆司先輩に言われたからそうしたんだけれど、マンションまで訪ねてきていたの?
あのままあそこに住んでいたら、マンションまで来て責められていたんだろうか。
想像すると背筋がゾッとする。
「まあいいや」と店長は不敵に鼻を鳴らす。
「今ひとり?勝手にバイト辞めたお詫びってことでちょっと付き合ってよ」
「いえ、私——」
伸びてきた手に思わず身体を強張らせると、後ろから肩を引き寄せられてその手から逃れた。
固い胸に頭が当たり、同時にシトラスが香る。
「僕の婚約者に何か?」
降ってきたのは、微かに厳しい颯太の声だ。
「婚約者…?」
店長はぽかんとしたあと、大袈裟に声を上げ、馬鹿にしたように笑う。
「はあ?有沢さん、彼氏いないって言ってたじゃん。あれだけ思わせぶりな態度取ってたくせにさあ。貢いでくれる男ができたからバイトの必要がなくなったわけ?」
「そんなこと…」
萎縮してしまって、弱々しい反論は声になっているかもわからない。
「…居酒屋の店長か。鈴木淳、だっけ」
「えっ?」
店長と私の声が重なった。
電話に関しては、着信拒否していいと隆司先輩に言われたからそうしたんだけれど、マンションまで訪ねてきていたの?
あのままあそこに住んでいたら、マンションまで来て責められていたんだろうか。
想像すると背筋がゾッとする。
「まあいいや」と店長は不敵に鼻を鳴らす。
「今ひとり?勝手にバイト辞めたお詫びってことでちょっと付き合ってよ」
「いえ、私——」
伸びてきた手に思わず身体を強張らせると、後ろから肩を引き寄せられてその手から逃れた。
固い胸に頭が当たり、同時にシトラスが香る。
「僕の婚約者に何か?」
降ってきたのは、微かに厳しい颯太の声だ。
「婚約者…?」
店長はぽかんとしたあと、大袈裟に声を上げ、馬鹿にしたように笑う。
「はあ?有沢さん、彼氏いないって言ってたじゃん。あれだけ思わせぶりな態度取ってたくせにさあ。貢いでくれる男ができたからバイトの必要がなくなったわけ?」
「そんなこと…」
萎縮してしまって、弱々しい反論は声になっているかもわからない。
「…居酒屋の店長か。鈴木淳、だっけ」
「えっ?」
店長と私の声が重なった。