□TRIFLE□編集者は恋をする□
 

私を取り合って片桐と三浦くんが殴り合うなんてありえない設定に、思わず吹き出した。

「でも片桐さんと殴り合って勝てる自信はないよなぁ。それに殴られて自慢の顔が腫れるとイヤだし」

「三浦くんって、どこまでが本気でどこまでが冗談かよくわかんないよね」

「え、そうですか?全部本気で言ってますよ。女の人を口説くときはとくに」

三浦くんはにっこりと笑って、私の手の甲にキスをする。
こういうところがいちいち嘘っぽいんだよ。

「それにしてもあの彼女、どっかで見た事ある気がするんだよなー」

「三浦くんって、綺麗な女の人にはみんなにそんな事言って口説いてそうだよね」

呆れながらそう言ったとき、ふわりと煙草の香りがした。
その香りに、条件反射のように勝手に心臓がぎゅっと苦しくなる。
振り返ると、片桐の後ろ姿が見えた。
取材から帰って来たんだ。

「片桐!」

私が声をかけると、片桐はゆっくりと振り返りいつもとかわらぬ表情でこちらを見下ろした。
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