そして消えゆく君の声

ホタルの棲む川

 私たちの行き先は山に面した県北の町。川上へホタルを見に行くのが目的だった。 


 ホタルというと初夏のイメージが強いけど、場所や種類によっては今の時期でも見られるらしい。山のほうなら気温も高くないからというのが黒崎くんの意見で、もちろん私も賛成した。

 身体の弱い幸記くんには人でいっぱいの炎天下より涼しい場所のほうが過ごしやすいだろうし「山でホタル観賞」なんていかにも夏らしくて非日常な響きにわくわくする。 


 考えてみれば、私も本物のホタルを見るのは初めて。星空の下、川面を走る光はどんな風に映えるのだろう。




 電車を一回、地下鉄を二回乗りかえて、古びたバスに揺られること一時間。

 窓ごしに流れる風景は駅前から郊外、山里へと顔を変えて、のどかな田んぼ道の真ん中でゆっくり停車した。

 きしみながら開いたドアから地面へ飛び降りると、目の前に広がるのは波打つ草と、暮れ始めのオレンジと群青色の入り混じった空。


「わあ……」


 何もかもが盛夏だった。

 目の前を横切る蝉の影も、緑を鳴らす涼しい風も水の張った田んぼも、金色の陽に照り映えて。


 そっとまぶたを閉じると、さらさらと川の流れる音が聞こえた。
 
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