そして消えゆく君の声
 雪乃の気持ちは嬉しいけれど、根拠のない悪口を言われるのは困る。

 そもそもこんなの、いじめと大差ないよね。黒崎くん、気にしてるのかな。


「黒崎くんの話はもう終わり。それより、今日の数学助けてよ」


 まだ何か言いたそうな雪乃を片手で止めて、私は鞄から先週配布されたプリントを取り出した。

 よれよれになった二つ折りの紙には書き込みこそたくさんあるけれど、解答欄は空白のままだ。


「何これ?」

「この前配ってたでしょ。一応目は通したんだけど一行目からわからないところだらけで、このままじゃ今日のテストも厳しいかも」


 中等部時代から文系一直線で理系科目は補習回避が目標の私たち。

 わからない箇所を示す指を無言で見つめていた雪乃は、やがて「うわあ」と額をおさえると。


「……やば、今日ってテストの日だっけ」

「え、もしかして忘れてたの!?」

「完全に」

「あーあ、補習確実だね」

「桂だって先週補習だったじゃん」

「田辺先生の数学がむずかしいのが悪いんだもん、この前なんてクラスの半分近くが補習だったし」
 
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