そして消えゆく君の声

夜は更けて

「ごめん」

「気にしなくていい」

「……ごめんなさい」

「気にするなって言ってんだろ」

「そうだよ。桂さんが悪いわけじゃないんだし」

「どう考えても私が悪いと思う……」


 まるで車の通らない、夜の道路。


 大きな満月を背に草の茂った脇道を歩きながら、私たちは今日十回は交わしたであろう会話をもう一度くり返していた。

 だってしょうがない。

 本来なら私たちはとっくに最終バスに乗っているはずで、なのに今も山近くの道を歩いていて、その原因を作ったのは私なのだから。




 ことの起こりは一時間前。

 短い奇跡のようなホタルを見終えた私たちは、光の余韻を抱えながら元来た道を歩き出した……までは良かった。

 問題はその後。

 川下へと続くゆるい坂道を下り始めた私は、ものの数分で右足の激痛に襲われたのだ。


 原因は、言うまでもなく靴擦れ。


 いつの間に悪化したのか爪先とかかとの痛みは少し歩いただけで冷や汗が出るほど酷くなっていて、明かりの下で見なくても皮が剥けているのがわかった。

 擦れきった皮膚。
 今にも割れそうな爪。

 こんなところで座り込んでもどうしようもないと分かっていても足は思うように動かなくて。


 ……結局、足を引きずりながら停留所に辿りついた私が見たのは、すでに小さくなったバスの後ろ姿だった。
 
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