そして消えゆく君の声
『あいつは自分自身を否定している。殻にこもって、外を見ないようにしている』

『本気で秀二をどうにかしたいと思っているのなら、一番の壁はあいつ自身だ』


 これが、黒崎くんの秘密の断片。

 この震え、この絶望。
 どこにも行き場所のない、真っ暗闇が。


 根拠なんて一つもない、ただの想像。けれど私はきっとそうだと確信していた。だって他に、こんな苦しみの抱え方があるだろうか。

 もし。もし黒崎くんに誰にも言えない「何か」があって、それが悪夢になって黒崎くんを苦しめているのなら。


(ここで手を離しちゃダメ)


 今手を離したら、きっと一生後悔することになる。


「黒崎くん」


 びくりと震えた身体。

 当惑した目が突き刺さんばかりに私を見すえていたけれど、構わず痩せた背中に手を回す。


「……なんでも、ひとりで抱えこまなくていいんだよ」


 本当は、緊張で胃がねじれてしまいそうだった。手だってつないだことがないのに、こんなこと。

 でも。


「つらい時はつらいって言っていいし、泣いてもいいの。私で良ければいくらでも話を聴くから。黒崎くんの話を聴きたいから」 


 でも伝えたかった。

 私の気持ちを。想いを。きっと、今までずっと一人で苦しんでいた彼に。
 
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