そして消えゆく君の声
 子供をなだめるように背骨にそってゆっくり手を動かす。たどたどしい言葉は告白みたいで、口にしてから少し気恥ずかしくなったけど。


「だから無理しないで。こんな風にひとりで我慢するのは、悲しいよ」


 目を伏せてささやきかけると、黒崎くんが息をのんで


「…………っ!」

 
 次の瞬間。
 痛いほどきつく抱きしめられていた。
 

「…………黒崎、くん」


 重なった箇所から、おどろくほど速い鼓動が伝わってくる。

 息苦しいほどの力。

 肩口に顔をうずめた黒崎くんの表情は見えなかったけれど、薄い布越しにつたわる微かなぬくもりと、ひっきりなしに跳ねる呼吸が、すべてを物語っていた。 

 ああ、涙ってあたたかいんだ。

 当たり前の事実になんだか私まで泣きたくなって、涙の代わりに背を抱き返す。
 

 大丈夫。 

 大丈夫だよと伝えるために。



「………私が、いるから」



 嗚咽が止むまで、そうしていた。
 
< 146 / 401 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop