そして消えゆく君の声
 頭が痛い。

 全身が鉛のように重たくて、ソファに沈みこみそうな錯覚に陥る。

 体調を崩したときはいつもこうで、指一本動かすのでさえ億劫だった。


 とはいえ、ずっと体操服でころがっているわけにもいかないし、誰かに見られたら恥ずかしい。


(すこし眠って、昼には戻ろ)


 ゆっくり横になれば、血も戻るはず。
 そろりと身を起こして、私は壁伝いにベッドへ向かった。

 パーテーションの向こうに並ぶベッドは数が三つと少ないこともあって満席の日が多いのだけど、今日は珍しく貸切だった。

 ジャージの上着を脱いで、靴の砂をはらって。


「お邪魔します」


 人の気配なんて無かったけど、なんとなく声をかけながら間仕切りの中へと身をすべり込ませる…………と。
  

「……」

「……あ」


 前言撤回。

 奥のベッドには先着がいた。


「こ、こんにちは」

「…………」


 無造作に脱ぎ捨てられた靴。

 両手におさまった分厚い本。

 長い足をシーツに投げ出して、制服のままベッドに座っている黒崎秀二くんが。
 
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