そして消えゆく君の声
 黒崎くんが保健室に。

 意外な遭遇にビックリしたのも束の間、そう言えば体育の時も見かけなかったと思い出す。

 ……やっぱり傷が痛いのかな。

 靴を履くのもつらそうだったし、球技なんて出来ないよね。


「え…っと、ぐうぜん、だね」

「……」

「私、貧血起こしちゃって。ほら、今日暑いから」

「…………」


 わざとらしく腕まくりして笑っても、伏せられた視線が上げられることはない。

 前に立つ私なんて存在しないかのように本のページをめくる指。

 表紙をささえるもう片方の手には、白く乾いた包帯が巻かれていて。


「黒崎くんは、怪我……」


 大丈夫? とたずねかけた唇は、けれど小さな声にさえぎられた。 


「……い」

「え?」


 低いトーンが聞きとりにくくて、かるく顔をよせる。ようやくしゃべってくれた、なんてのん気に思いながら。

 けれど。続く言葉はぞっとするほど冷ややかだった
 
< 16 / 401 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop