そして消えゆく君の声
「告白したのなんて初めてだから、なんて言えばいいのかわからなくてさ。これでも一週間くらい前から練習してたんだよ。でもいざ桂さんを前にしたら、言いたいことが増えて」


 明るく笑って、そっと手を離す。

 ほどけた指を見ると弓形の眉を残念そうに下げて。


「毎日会えたらこんな風にならないのかもしれないけど、俺には無理だし」


 小さな言葉の切なさに、とまどってばかりの自分が恥ずかしくなった。

 強くて、優しい幸記くん。

 幸記くんは一生懸命私に想いを伝えてくれたんだ。ただビックリしているだけじゃいけない。ちゃんと向き合わなきゃ。


 ……でも何て言えばいい?


 私は幸記くんの気持ちには応えられない。こんなに想ってくれているのに、手を取ることができない。


 だって私は。
 私の好きな人は。


 ぐるぐる回る思考。

 唇を噛んで下を向こうとした私の肩に、幸記くんが軽く触れた。


「言わなくていいよ」

「違うの、私」

「わかってる。でも、本当にいいんだ。桂さんが悩むくらいなら返事なんていらない。気持ちを伝えたかっただけだから」
 
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