そして消えゆく君の声
「なんでこんなに店が出てんの?」

「あ、縁日って言うの。神社のお祭りみたいな感じ」

「ふうん。初めて見た」


 ……そっか。
 幸記くんには馴染みがないんだ。

 不可解げな顔を見ると一人騒ぐのが申しわけなくなってきて、つい押し黙った私の代わりに黒崎くんが続けた。


「家の近くには神社なんてないからな」

「あるじゃん、あの大きい建物」

「あれは寺だ。前に言っただろ」

「そうだったっけ、多分秀二の説明が悪かったんだよ」


 あきれた声の黒崎くんと、悪びれず肩をすくめる幸記くん。

 くるりと振りかえって私を見ると、


「桂さん、足大丈夫?」

「え?」

「見てみたいんだけど、縁日」


 好奇心に満ちた大きな目で、期待混じりに問いかけた。

 どうかなと答えを待つ表情は幸せそうで、私のなかにあった卑屈な気持ちがほどけていく。

 そうだ。
 幸記くんが当たり前の幸せを知らないなら、知る手助けをすればいい、見にいけばいい。

 自分だけが楽しい思いをして悪いなんて気持ち、誰にとっても得にはならないんだから。


「うん、もう大丈夫」


 だから、私は幸記くんに手を差し出した。

 一瞬、朝の出来事が頭をよぎったけれど、ほんの少し勇気を出せば手をつなぐのはとても簡単だった。



「一緒に見よっか」
 
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