そして消えゆく君の声
「要さんもいいよね。クールすぎて怖いのが逆にいいっていうかさ、一回あの声で叱られてみたい」

「征一さんはどうしたの」

「チョコもケーキも好きなのと一緒。でも、あれだけ真面目だと逆に裏があるかもね」


 雪乃、するどい。


「実は結構遊んでるとかだったらいいなー」


 ……するどすぎる。


(要さん、か……)


 心の中でつぶやきながら思い出すのは、水の底のような店で皮肉げに笑っていた切れ長の目。

 要さんも何を考えているのかわからない人だけど、征一さんよりは人間らしく思える。

 相手を煙に巻くようにたくさんの言葉を並べたてて。けれど、仕草や表情には隠しきれない感情が滲んでいたからだろうか。


 心の中が見えない征一さん。
 ふたつの顔を持つ、雲みたいにつかみどころのない要さん。


 そして。


(黒崎くん、今日学校来なかったな)


 何を考えても最後にたどりついてしまう人。要さんが「なにか隠している」と言っていた黒崎くんと、悪戯っぽい表情で、けれどどこか寂しげに微笑む幸記くん。


 きっとみんな胸に抱えているものがあって、けれどどんなに目をこらしても、いばらのように絡みあった秘密の向こうは覗けなくて。


(明日は、しゃべってくれますように)


 祈るような気持ちで窓越しの空を見上げると、細い細い飛行機雲が伸びていた。
 
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