そして消えゆく君の声
 要さんと二人で店を出た時にはもう、辺りは暗くなっていた。


 薄闇をかぶった空に光る星。

 金属質の階段をカンカンと鳴らしながら細い裏通りへと下りると、要さんはシンプルな黒いケースに包まれた携帯を眺めて。


「じゃあ、俺はここで」

「あ、人に見られたら困りますもんね」

「それもあるけど、これからデートだから車出してもらおうと思って」


 デート。
 要さんが。

 下世話かもしれないと思っても、どうしても聞き流すことができなかった。


「お、お付き合いしてる方、年上なんですか?」


 そわそわとたずねた私に要さんが首を振る。


「年上だけど別に付き合ってないよ。まあ、日原さんにはわからない関係」


 さりげなく問題発言を口にしながら右側面のボタンを押し、消灯した携帯を鞄にしまう。

 いっそう暗くなる周囲。
 切れかけた街灯の明かりだけが、まるで連続写真を撮っているみたいに光っては整った顔を照らしていた。


「征一には理解できないって言われたよ。好きでもない人と一緒にいて楽しいのって。世界で一番言われたくない相手なんだけど」 

「征一さんは、えっと、こ、恋人……とか」

「いたら笑えるけど、いないだろうね。だから代わりにお前は秀二といて楽しいのかって聞いたらなんの迷いもなく頷いてたよ、楽しいはずだって」

「はず……」

「肉親は大切なはず。弟は大切なはず。だから秀二は大切で、秀二といれば楽しいはず。全部想像だよ、あいつ自身がそう思っているわけじゃない」
 
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