そして消えゆく君の声
「……なに、これ」

 見ているだけでまた貧血を起こしそうな赤いガーゼ。

 こんなの、私が来た時にはなかった。

 ちょっと擦りむいたり、ちょっと切ったりした程度じゃ流れないたくさんの血。


「一体だれが、こんな……」


 あわてて机の上の利用表を見ても、記入された症状は当たりさわりのないものばかり。

 体育でこけた。

 微熱。

 寝不足。

 下へ下へと指をすべらせて、項目を確認していく。すると、ひとつだけ症状の書かれていない段があった。


「あ……」


 利き手を怪我したからだろう。がたがたにゆがんだ字で書かれた名前は、私のよく知るものだった。


『1-D 黒崎秀二』


 私は息を飲んだ。
 瞬時に頭をよぎる、ついさっき目にした白い包帯。


(これ……黒崎くんの、だったんだ)


 強いおどろきと、やっぱりという気持ちが同時にわき上がる。だって、あんなに痛そうにしていたから。


(でも、どうして?)


 よっぽど不運な事故にでも遭わない限り、ここまで出血するような傷は負わないはず。

 それに、怪我のことを聞かれた時、黒崎くんはすぐに目をそらした。まるで問いかけから逃げるように。


 一体、なにがあったんだろう。

 
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