そして消えゆく君の声
 暖房のきいた教室は、明日からテストとは思えない活気に満ちていた。


 無理もない。一週間のテストに耐えれば終業式までずっとお休み。その後にはクリスマスと年末年始がひかえているのだから。


 話題は冬休み一色。あとはクリスマスまでに恋人を作る方法とか、サンタクロースをいつまで信じていたかとか、どこの初詣に行くかとか。


 私も輪にまじりたいところだけど、明日の一時間目は苦手な数学。

 前回は努力の甲斐あってギリギリ補習圏外だったから、今度は平均点に引っかかりたい。


(ヤマが当たる魔法があったらなあ)


 ふせんだけはたくさん付けた教科書をめくりながら子供みたいなことを考えていると。


「ひーちゃん、ちょっといい?」


 前の席の角居ちゃんが振り返った。

 眼鏡の奥の丸い目が、やわらかく弧を描いている。


「あ、ごめん。窓寒かった?」


 すぐ頬が赤くなる私はこの季節でもちょくちょく風を入れて顔を冷やしていて。

 それが寒かったのかと慌てて窓に手を伸ばしたけど、角居ちゃんは「違う違う」と笑って首を振った。


「勉強、すすんでる?」

「すすんでないけど頑張る、今回は平均点目指してるから」

「前回は快挙だったもんねえ。ところで、ひーちゃんあれ行くの」


 おっとりした口調でたずねながら指さしたのは、黒板に貼られた白い紙。

 それは終業式前日に開かれるクリスマス会の告知で、今年最後にみんなで盛り上がろうとクラスの男の子たちが企画したものだった。
 
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