そして消えゆく君の声
 だから私は、橋口くんに頷き返した。私にはまだ、伝えないといけないことがある。

 わずらわしいと思われても、嫌われたとしても。今言い遂げられるのが私だけなら、言うしかない。


「なあ、あれクリスマスの飾りかな」


 唐突な言葉にビル群を見上げると、建物の隙間からちかちかと光る電飾が見えた。

 一つ向こうの通りでツリーをかたどったイルミネーションを見たから、その一部だろうか。


「あれだけ見ると、飛行機のライトか何かみたいだな」

「私はあれ、星に見える。金星とかそういうの」

「金星かあ。前から思ってたけど、日原って言うことが文学的だよな」

「それ、変っていう意味?」

「いい意味だよ。飛行機じゃ味気ないし」


 白く、大きな光が輝く。

 私にはあの光、あの星が、背中を押してくれように思えた。


 もちろんただのイルミネーションだってわかっている。

 だけど今は、自分以外の力が必要だった。静的な、見守ってくれるような存在が。


「私、そろそろ戻るね」

「うん。なんか引き止めてごめんな」

「こちらこそ。ありがとう、色々聞かせてくれて」


 冷えた空気に二度目のくしゃみをして、今度こそ地下へと戻る。

 階段を下りながら後ろを振り返ると、橋口くんはまだ「星」を眺めていた。


 さえざえとした光はビルの壁に反射して、双子みたいに輝いていた。
 
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