そして消えゆく君の声
 色んなことが、ちょっとずついいほうに向かっているような気がした。

 黒崎くんにとっても、幸記くんにとっても。

 幸せが大きなケーキだとしたら、今は何とか材料をそろえた段階でしかないのだろうけど、これから三人で混ぜたり、ふくらませたり、飾ったりできるんだ。


 子供みたいな発想に一人照れ笑いする私の前で、足音が止む。


 すり硝子ごしに誰かがこちらをうかがっているのが見えて、私は速足で扉に近づいた。黒板側の扉は立てつけが悪くて、外からだと開けにくい。

 引手に指をかけて右側に引くと、ギイ、と軋む音とともに扉が開いた。

 床に伸びる長い影。何気なく視線を上げて、私は絶句した。


「どうもありがとう」


 穏やかな声でお礼を言われた時、私はまだ知らなかった。

 胸の中で描いていた夢が、叶わなくなることを。


「…………」

「突然訪ねてきてごめん。君に用があって来たんだ、日原桂さん」


 何もかもが壊れてしまう時が、目の前にせまっていたことを。
 
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