そして消えゆく君の声
 厚い雲を背負って生きているような人、それが黒崎くんの印象だった。


 無口で無表情。

 いつもつまらなさそうに頬杖をついていて、誰かと笑ったり、軽口を叩いたりしているところなんて見たことがない。


 だから、その黒崎くんが何の関わりもない相手に傘を貸してくれるのが信じられなくて、私はきっちりたたまれた傘と、唇をまっすぐに結んだ黒崎くんを何度も見比べた。


「えっと……いいの?」

「傘がなきゃ帰れないんだろ」

「でも悪いよ、黒崎くんが濡れちゃうし」

「いいから持ってけよ、ほら」


 苛立ったようにそう言うと、無理やり傘を押しつけてくるりと踵を返す。

 せめて途中まで一緒にと声をかけようとしたけれど、間に合わなかった。


 雨に濡れて色の濃くなった制服が、薄暗い景色と混ざり合いながら角の向こうへと消えていく。
 

 
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