そして消えゆく君の声
 壁際の椅子におずおずと腰かけて、見下ろした幸記くんは陶器の人形みたいだった。

 会わなかった期間は一ヶ月にも満たないのに、ひどく弱々しい印象を受ける。

 血管の浮いた四肢やとがった顎、紙のように白い肌もそうだけど、何より幸記くんがいつも内側から発していた強い光が消えかかっているようで、空の胃がぎりぎりと痛んだ。


 時間がない。


 耳に残る要さんの言葉が一気に現実味を帯びる。砂がこぼれるような焦燥感がざらりと両腕を撫で上げて、私は意味もなく指を組み替えた。 

 早く話さないと。
 なにか言わないと。
 手が届かなくなる。 

 そう思うのに言葉は出なくて、上昇する脈を抑えようと息を吸いこんだ私に、幸記くんはふと口元をやわらげた。 


「不思議だな」

「え?」


 懐かしいものを見るように細められる両目。


「今こうしていることが。ずっと怖かったんだ、あの日から。秀二や桂さんがどうしてるか、あんなことをした俺のことを、どう思っているのか。想像するだけでおかしくなりそうだった」
 
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