そして消えゆく君の声
「……!?」


 振り返った先には同学年か、少し年下に見える女子が立っていた。

 制服を着ていないから、同じ学校の生徒ではないだろう。水色のランドセルを背負って、無防備に笑っている。


「もしかして迷子?」

「ち、ちが……」

「ごめん、なんか困ってたように見えたから。あ、その制服って駅に看板あるとこのだよね。私ちょっと憧れてるんだ」


 丸い瞳が覗き込んできて、思わず後ずさった。クラスの女子とだってほとんど話したことがないのに、見ず知らずの相手にうまく返せるわけがない。

 早くどこかに行ってほしい。
 一人にさせてほしい。

 そんな祈りもむなしく、そいつは踵をかえすこともなく隣に座ってきた。明らかに動揺している俺に気づかないのか気にしていないのか、細い足をぶらぶらさせて。


「私、朝お母さんと喧嘩しちゃったの。もう怒ってないんだけど、わーって文句言って、顔も見ないで家を出ちゃったから」


 なんだか帰りにくくて、とため息をつく。

 後悔と迷いの滲む言葉。
 それはついさっき経験した痛みに似ている気がして、心の奥が微かに波打った。


 何か。
 何か言わないといけない気がする。

 唇を少し開いて、迷いながら返事を口にした。
 
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