そして消えゆく君の声
「……俺も」

「えっ、お母さんと喧嘩したの?」

「いや、兄さんと……すごく優しいのに、俺が勝手に怒って」

「お兄さんいるんだ」


 こくりと頷くと、黒目がちの目に好奇心が宿る。やっぱり話すんじゃなかったと思ったけど、どこかに正反対の気持ちもあった。

 きっと、俺は話したかった。
 兄さんのことを。いつも上手く話せない大事な人のことを誰かに聞いてほしかった。


 だから、家の話には極力触れないよう気を配りながら普段のやり取りや喧嘩のきっかけについてぽつぽつ口にすると、そいつは足を動かすのをやめて真剣に話に聞き入った。


 やがて、何かいいことでもあったように両手を合わせて。


「お兄さんのこと、大好きなんだね」


 と、にっこり笑った。
 
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