そして消えゆく君の声

屋上にて

 一睡もできずにむかえた、夜と地続きの朝。

 学校に向かっている間も、教室に着いてからも、私の頭の中は黒崎くんのことでいっぱいだった。

 正確に言うと、黒崎くんと幸記くんのことで。


(黒崎くん、今日、学校来るかな)


 今すぐにでも知りたかった。
 二人の関係を、あの傷のことを。

 あの日、最後まで何も言わなかった黒崎くん。

 きっと簡単に口にできることじゃないのだろうし、私なんかじゃ大して役にも立てないだろうけど。


 でも、もし助けが必要なんだったら。どんな小さなことでもいいから力になりたかった。


 そんなことを考えながら席に座っていると、横からトントンと肩を叩かれて、


「どしたのむずかしい顔して」


 不思議そうに首をかしげる雪乃に、あわてて首を振る。


「な、なんでもないよ。昨日あんまり寝てないから、眠たいだけで、うん」

「早寝早起きが自慢の桂が寝不足?なにしてたの」

「宿題、とか。あ、あと本、読んでてっ」


 あはは、とかわいた笑みを作ったけど、雪乃の眉間は怪訝そうに寄せられたまま。


 ……私、嘘つくの下手だなあ。


「え、っとそうそう。英語の宿題、最後の訳できた?」

「あー注釈のとこ?あれ辞書見ても意味わかんなくてさあ。なんのための注釈だっての」

「回答がついてたらいいのにね」


 出席確認中の先生に見つからないようひそひそ声でしゃべっていると、


「……あ」
 
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