そして消えゆく君の声
 おだやかな教室の空気を打ちやぶるように、扉の開く音がひびいた。

 朝の光を背負った影が、ほこりだらけのフローリングに伸びる。白色のやわらかい陽が、肩口でゆれていた。


「5分の遅刻だ、気をつけろ」

「………すみません」

「どうした?それ」

「……転んだだけです」


 面倒そうに動かされる、うすい唇。

 集まる好奇の目をまるで無視した冷めた瞳に、私は知らず唇を噛みしめた。


「転んだ、だってさ。かっこわる」

「……」

「……桂?」

「………」

「もー、どうしちゃったの?さっきから変だよ」


 すぐ近くで囁かれる雪乃の声が、なぜか遠い。

 視線が離れない。離せない。先生と向き合っている横顔から、左頬から。そこに貼られた、分厚いガーゼから。


「……まさか」


 先生に軽く会釈すると、身体を投げ出すように机に突っ伏した黒崎くん。

 ほんの少しの間、シャツから覗いた手。


 そこに残る擦れたような赤みに気付いたのはクラスの中で私だけだったと思う。
 
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