そして消えゆく君の声
「黒崎くん」


 にぎやかな声につつまれた昼休み。

 私は何度か深呼吸をしてから、廊下へ出ようとする黒崎くんに声をかけた。

 教室で話しかけると嫌がられるってわかってたけど、少しでも早くしゃべりたかったから。


「……」

「話が、あるんだけど」

「…………」


 黒崎くんは何も答えず、そのかわり、窓ごしに見える屋上の手すりに目をやった。

 昼の光に照られされる頬、その中央を痛々しく覆うガーゼがいっそう白く見える。

 その仕草が意味することに気付いて、私は小声でうなずいた。


「……わかった」


 ここでは話せない、と言っているんだ。

 どうせ話すのなら、人目につかないところがいい。雑草と黴だらけの屋上なら、きっと、誰も来ないはず。




 東校舎の上にある屋上は立ち入り禁止で、掃除もされていないからわざわざやってくる生徒はいない。

 だからたまにサボり場所に使ってるって、前に、黒崎くんが言っていた。


(誰も、いないな)


 美術室や書道室がならぶ東校舎は休み時間なのに……というか休み時間だからこそ、まるで人の姿が見えない。

 静まり返った廊下に、上靴のゴムとリノリウムのぶつかる乾いた音だけがひびく。
 
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