そして消えゆく君の声
「悪い。こんな風に話すつもりなんてなかったのに」

「……」

「日原にだけは、言わないつもりだったのに」


 私にだけ?どうして?

 そう聞きたかったけれど、嗚咽をもらす口からは、上手く言葉が出なくて。

 ただ、なだめるように重ねられた手の体温を肩口に感じながら、熱い膜の張った目を閉じた。


「ごめん」


 黒崎くんは何度も私に謝っていた。でも、私にはなぜ謝るのかわからなかった。

 私が泣いているから?

 でも私は、何も知らずに呑気に笑うくらいなら涙の中でも真実に触れたかった。


(謝らないで)


 心の中で繰り返した言葉は、やっぱり涙に阻まれて、かたちにならなかったけど。




 あの日、あの時間。
 初めてさぼった五時間目。

 あの時、私と黒崎くんは、初めて正面からお互いに向き合ったのだと思う。


 ――――例え、


 空を眺めていた黒崎くんが、決して口に出せない「秘密」を抱えていたのだとしても。
 
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