そして消えゆく君の声
 雪乃が同じ予備校の子と付き合い始めてから一ヶ月。

 ここ数週間は、会話の九割が彼氏かデートかデートの作戦会議に費やされている気がする。


(本当に夢中なんだなあ)


 微笑ましさ七割、呆れ三割で笑うと雪乃は誇らしげに胸を張って、


「桂もそろそろ彼氏くらい作りなよ?もう高校生なんだから」

「なにその上から目線。別に、無理に作らなくてもいいし」

「そう言ってる間に高校卒業しちゃうよ、興味ないなら急かすつもりはないけどさ、好きな人いるんでしょ?」


 うっ、と言葉につまってしまったのは「図星です」と言っているも同然で、案の定、丸めたプリントで肩をたたかれてしまう。


「顔に出すぎだってば、で、誰なの?いい加減教えなさい」

「ひ、秘密」

「取り持ってあげるからさあ。あ、うちの彼氏は駄目だけど」

「秘密ってば秘密、教えません」

「あたしとあんたの仲でしょー?」


 言えない。

 言ったら反対されるのが目に見えている。
 ……だって雪乃はその人を嫌っているし。
 
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