推し作家様、連載中につき。
 水谷くんは近くで見れば見るほどキレイな顔をしている。

 そんな美顔を歪ませてしまうとなると、ものすごく心が痛い。

 けれど私がどうにかなって爆発するのに比べたら、最善の策だと言えるはず。



「……朝乃!!」

「っ……!!」



 なのに、なのに!!

 あっさりつかまってしまった放課後、目の前には細められた水谷くんの瞳。


「水谷くん、部活は……?」

「今それどころじゃない」


 はへ……と変な声が口から洩れる。

 じりじりと近づいて距離を詰めた水谷くんは、


「俺のこと避けてるよね?」



 と言って唇を噛んだ。


「えっ……」

「どうしてか教えてくれない? 嫌な気持ちにさせたんだったら謝る」

「いや、ちがくて……!」

「なにが違うの?」



 両者、必死。

 距離を縮められるたび、心臓がぎゅっと縮み上がって、顔に熱が集まる。
 どくどく、どくどくと血液が循環しているのがわかる。


「……あ、あーーーっ、! 今日は名高先生の連載が更新される日だーーっ!!」


 大声を出して、水谷くんと壁の間をするりと抜ける。


「え?」

「ってことで、私は推し作家様の急用を思い出したので、世界を明るくするために帰りますね!! 水谷くんさようならっ!」

「ちょっと、朝乃!?」


 ここは逃げ一択。

 名高先生、口実につかってしまってごめんなさい。


 心の中で謝罪して土下寝をしつつ、鞄が揺れるのもお構いなしで走る。
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