月がてらす道
【3】彼女が気になるのは


 セミナー会場である、8階の大会議室に入ると、開始5分前の時点ですでに多くの社員が集まっていた。半年に1回の開催だそうだから、今年の新入社員は参加しているだろう。中途入社も意外と多いのだろうか。そんなふうに思うくらい、席が埋まっている。
 眺め回した室内の顔ぶれの中に、別の課の顔見知りを見つけ、尚隆はちょっと驚いた。彼は半年以内の中途入社でも、もちろん新入社員でもないはず、と思っていたが……もしくは、前回以前のセミナーに何らかの理由で参加できなかったのだろうか、と推測する。
 直後、昼休み終了のチャイムが鳴った。鳴り終わる前に、ファイルを抱えたみづほが会議室に入ってくる。学生時代と同じく、時間にはきっちりしているようだ。ホワイトボードを背に、教師然として立つ姿が、よく似合っている。
 「皆さん、お集まりいただきましてありがとうございます。システム管理課の須田と申します。本日はよろしくお願いいたします」
 ざわついていた室内が、すっと静かになる。みづほのよく通る声には不思議と、皆の耳を傾けさせる効果があるようだった。
 「お配りした資料は6枚です。足りていますでしょうか?
  ……では、セミナーを始めます。1枚目をご覧ください」
 と言われて見た資料の1枚目には、セミナーの大見出しとともに、小見出しがいくつか並んでいる。現代のネット社会の状況、メリットとデメリット、SNSにおける功罪、その中での社会人として適切な姿勢、など。
 「インターネットが一般に活用されるようになってまだ30年ほどですが、今や私たちの生活には欠かせないほどに根付いています。そこには様々なメリットがあり、反面デメリットもあります。皆さんも利用する中でお感じになる時があると思いますが──」
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