俺様王太子に拾われた崖っぷち令嬢、お飾り側妃になる…はずが溺愛されてます!?
「団長は、ベアトリスのことを心配しているんだよ」
サミュエルは慰めるように、ベアトリスに声をかける。
「心配? 絶対に違います。意地悪しているんです」
ベアトリスは眉根を寄せ、首を左右に振る。心配している人間が、要望を却下されて落ち込んでいる相手に更に仕事を押しつけたりするだろうか。いや、しない!
「はあ、新刊が……」
ベアトリスは先ほどジャンに手渡された書類を読みながら、独り言ちる。
ベアトリスの数少ない娯楽のひとつなのに。あの男のせいで!
偉そうな態度が脳裏に蘇り、またイラッとした。
(自分は姿をジャン団長に変えて好き勝手に動き回っているくせに、本当に頭にくるわね)
そこまで考えて、ベアトリスはふとページを捲る手を止める。
(姿を変える? ……そうだわ!)
名案を思いついて、すっくと立ち上がる。辺りを見回すと、探し人はすぐに見つかった。
「カイン様!」
「……うん」
机に向かって黙々と何かの作業をしていたカインは、相変わらず言葉が少ない。ベアトリスはそれを全く気にせず、カインの席に歩み寄った。