契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
すーすーと楓の呼吸が規則的になったのを感じて、和樹は息を吐いて彼女を抱いている腕を緩める。

少し開いた唇と安心したような寝顔は、普段より少し幼く見えた。
 
暴風に怯えて不安がる姿がかわいそうで、思わず腕に抱いて慰めた。今までの自分なら考えられない行動だが、今はもう驚かない。
 
彼女に対する特別な感情は、歴然として自分の中に存在する。

カレーを一緒に食べた日から今日までの二週間で、和樹はそれを思い知った。
 
この二週間は、なるべく帰宅するようにした。以前は在宅時、意識して書斎にこもっていたが、それもやめた。

楓に対する自分の気持ちを確かめたいと思ったのだ。

一日の終わりに何気ない会話をして、ときおり夕食を一緒に囲む。

そういう時は、土産にケーキを買って帰った。今度は彼女のリクエストを聞いて。

『君と会社で話をした時、君に結婚を決断させるために、たくさんメリットを並べたが、本当のところ"婚姻中はケーキを好きなだけ食べれるぞ"と言えば一発だったんじゃないか?』
 
嬉しそうにケーキを食べる姿が可愛くて、思わず和樹がからかうと、彼女はくすくすと笑いだした。

『ふふふ、そうかもしれない』
 
もちろん彼女に、仮面夫婦の夫の帰宅を嫌がる素振りがあれば、やめようと思ってはいたが、幸いにしてそんな様子は見られなかった。

福神漬けを取り合った時のようなたわいもないやり取りを、彼女も楽しんでいるように思えた。
 
そのことに想いを馳せながら、和樹は腕の中の楓をジッと見つめる。
 
ベルベットのような眉と長いまつ毛、薄暗い中に浮かび上がる白い頬に触れたいという衝動と、甘やかな香りに捕らわれた心。
 
これが愛おしいということなのだ。
 
そうはっきりと自覚した。
 
和樹をこんな気持ちにさせるのは、世界中でただひとり、彼女だけ。自分にとって唯一無二の存在だ。

絶対に手放したくはない。
 
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