契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
もちろんパーティなどでの振る舞いについては、事前に資料で頭に叩き込んである。

でも実際のシミュレーションは、ほとんどできていない状態だ。

「今から思えば、マ、マナー講座にでも通えばよかったと思います。和樹さんに言われなくても……」

 和樹が首を横に振った。

「いや、そこまでする必要はない。招待客の情報を覚えてもらうだけでも相当な労力だっただろうし。それに、講座なんて受けなくても君は食べ方も仕草も綺麗だ。……君からすれば、こういう言い方は嫌かもしれないが、ご実家が厳しかったからだろう」

「和樹さん……」
 
そんな風に思われているとは意外だった。

「でもそれで、夫婦のように見えるでしょうか……?」
 
不安な気持ちで楓は問いかける。
 
今のところ、仮面夫婦と噂されていたのは、社内においてのみだが、このパーティでの振る舞いで、さらに外部からも不審な目で見られたらと思うと不安だった。

さりとて、出席しないのはもっと不自然なのだから、もうほかに道はないのだが。

「大丈夫だ」
 
和樹が言い切る。そして、ふわりと楓を抱きしめた。

「俺の妻は、世界中でただひとり君だけだ」
 
唐突に強くなった彼の香りと、すぐ近くから感じる低い声音に、楓は目を見開いた。まるで本当の夫婦の間で交わされるかのような言葉に、背中が甘く痺れた。

顔を上げると、真っ直ぐな彼の視線が自分を捉えている。

その中に、いつもとは違うなにかが浮かんでいるように思えて、楓は彼から目を逸らせなくなってしまう。

< 123 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop