契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
「……じゃあ、独身を貫けばいいじゃないですか。副社長ならなにを言われようと平気なように思えますが」
 
穏やかな紳士の顔、ビジネス向けの有能な顔、そして失礼極まりない今の顔、三つの顔を使い分けているようだが、おそらく今が本当の彼なのだ。

この男が周りからの声を気にするようには思えなかった。

「両親に逆らえないわけでもなさそうだし」
 
直接話をしたことはもちろんないが、現社長は穏やかな人物として知られている。
 
和樹が「まあね」と言って肩をすくめた。

「早く結婚しろと両親は言うが、それはそれほど問題ではない。それよりも俺は既婚者のステータスが欲しいんだ」

「既婚者のステータス?」

「そう」
 
彼はややうんざりしたような表情になった。

「……たとえばさっき君を案内してきた第二秘書」
 
そう言って彼は入口に視線を送る。楓はさっきそこから出ていった黒柳を思い出した。

「……彼女は今日一日、社内チャットで済むような用事を、直接部屋へ来て伝えることが何度かあった」
 
おそらくは、彼と話をしたかったからだろう。

「それから、帰国してから取引先からの見合いの話がすでに三件入っている」

「え? もうですか?」
 
思わず楓は聞き返した。
 
確か彼が帰国したのは三日くらい前のはず。それなのにもう見合いの話があるなんて、驚きだった。
 
和樹がため息をついた。

「俺の周りはいつもこんな感じだ」
 
心底うんざりしたように言う。独身でいることで周りがうるさいというのは本当のようだ。

「でも副社長なら、そのくらいうまく渡り歩いていけそうですが。経験はおありのようですし」
 
嫌味を込めて楓は言う。

さっき『君じゃあるまいし』と言われたことを根に持っている。

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