契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
そう、彼女に問題があったわけではない。
 
誤算だったのは、結婚というものが、和樹が思っていたよりも複雑だったということだ。
 
夫婦とは、ただ籍を入れて同じ場所に住めばよいというものではないらしい。

業務に集中するあまりそのあたりのことに心配りできていなかった。

仮面夫婦という噂の出どころは十中八九秘書室だから、その責任を楓ひとりに負わせるのは酷なのだ。
 
でもこのままではいつかバレてしまうだろうことも確かだった。

「さて、どうするかな……」
 
腕を組んで窓の外へ視線を送り、和樹はさきほどの楓の部屋を思い出す。
 
必要最低限のものだけの殺風景な部屋は、こういう状況でなければ好感の持てるものだった。

必要なもの以外は切り捨てて目的に向かって邁進する。

和樹とてそうやって三葉商船の後継きに必要な実力を培ってきたのだから。
 
だが、彼女が和樹の妻らしくなるためにはあれではダメだなのだ。
 
和樹が思っていた以上に、楓の生活と三葉家の長男妻のイメージは乖離していた。この溝を埋めるのは容易ではないだろう。

実際、もしこれが純然たる取引相手との話ならば、おそらく和樹はあの場で契約終了を告げていただろう。

いや彼女との契約もビジネスみたいなものなのだから、そうするべきだったのだ。
 
——だが和樹はそうしなかった。
 
彼女との関係に猶予期間を持つことにしたのだ。しかもそれだけでなく自ら指導すると宣言した。
 
女性に使う時間と労力を削るために、楓に時間と労力を使う。

これでは本末転倒だ。
 
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