契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
「あの日は服から靴、アクセサリーまで全部俺が一緒に選ぶ必要があったから、仕事だけに集中できていたとは言えないな」

「え、全部、一緒に、ですか?」

「そうなんだ。彼女、服や靴に関しては知識がないどころか興味もないようで苦労したよ」
 
和樹はため息をつく。
 
一ノ瀬が解せないというように首を傾げた。

「それにしては、あの日の副社長は、あまりお疲れではないようでしたが」

「それは……」
 
そう言われて和樹はあの日の自分について違和感を覚えて口を噤む。

確かにそうだと思ったからだ。
 
今彼は『お疲れではない』と柔らかく表現したが、すなわちそれは和樹が苛立っていなかったということを指す。
 
基本的に和樹は女が身につけるものに興味がない。

だから恋人が買い物をする際は、似合うか?と尋ねられればにっこり笑って頷いて、どちらがいいか?と聞かれたら、どっちも似合うよと答える。大抵はこの繰り返しだ。
 
だが中には『あなたが選んで。あなたの好みのものが着たいの』などと厄介なことを言う者もいて、そういう時は苛立ちを抑えながら相手を納得させるため必要最低限の物を選ぶ。
 
もちろんそれを態度に出すことはしないが、幼い頃から一緒にいる一ノ瀬には、たとえ電話だとしてもバレてしまうのだ。
 
あの日和樹は、必要最低限の物どころか楓に必要なすべての物を一緒に選んだ。それなのに、苛立ちはまったく感じなかった……。

「まぁ……彼女との関係は恋人ではないし、ある意味仕事みたいなものだから……」

 曖昧に答えると、一ノ瀬は一応納得する。

「そうですか。ちなみに奥さまは喜ばれました?」
 
その問いかけに和樹は即座に首を振った。

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