契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
「いや、まったく。俺の妻らしくなることに関しては、多少やる気にはなったみたいだが、物を買ってやったこと自体は……。仕事に必要なパソコンかなにかを支給された程度に思ってるんじゃないかな」
 
喜ぶどころか『こんなに必要ですか?』と困惑すらしていた。

それを思い出し、和樹はあることに気がついて考え込む。

確かに彼女が言った通り、当初想定していたよりも服も靴もたくさん買ってしまったと思ったからだ。

一カ月という猶予期間を考えたらあんなにたくさんはいらなかったかもしれない。
 
どうしてだ?と考えて、頭に浮かんだのは、試着室の中で真っ赤になっていた楓の姿だった。

普段とは違う明るい色と上品なデザインの服が驚くほどよく似合っていた。

彼女のそういう姿をもっと見たいと思い試着をさせているうちに、いつの間にかあの量になっていたのだ。

「……ちょう、副社長?」
 
一ノ瀬からの呼びかけにハッとして、和樹は口を開いた。

「とにかく、まったく喜んではいなかった。困惑していたよ」

「奥さまらしいですね」
 
一ノ瀬がくすりと笑みを漏らした。

「そういえば、奥さまの新しいネックレスが話題になっていましたよ。三つ葉のデザインが意味深だと……。三つ葉は副社長を連想させますから、奥さまと副社長はやはり夫婦だったのだと改めて認識してショックを受けている女性社員も多いようです。これも仮面夫婦という噂を払拭するために副社長が考えられたんですね?」
 
一ノ瀬からの問いかけに、和樹は首を横に振った。

「あれは彼女が自分で選んだんだ。俺じゃない」
 
あの三つ葉のネックレスを選んだ後、スタッフから『奥さまのためのネックレス』と連呼されて、彼女は真っ赤になって呟いていた。

『そんなつもりじゃなかったのに……』
 
おそらく彼女が三つ葉のクローバーの花言葉を知っていたのは、会社名を連想する植物だからで、和樹に対する特別な感情はない。

でも今この時も、三つ葉のネックレスが彼女の首元に輝いていると思うだけで、和樹の中のなにかが満たされるような心地がする……。
 
なぜだ?と和樹は眉を寄せる。
 
一方で、一ノ瀬が頷いた。

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